イナビルの授乳中の使用について、産婦人科学会や小児科学会の見解、中止した際の再開のタイミングなどについて確認していきます。
Contents
イナビルの特徴
イナビルはラニナミビルを成分とするインフルエンザの治療薬です((イナビル吸入粉末剤20mg 添付文書 http://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/PDF/430574_6250703G1022_1_16.pdf))。
イナビルの最大の特徴として、1回の吸入のみで治療が完了する点が挙げられ、同じ抗インフルエンザ薬であるタミフルやリレンザよりも使い勝手が良い薬と言えます。
インフルエンザの治療のほか、インフルエンザの予防にも使用出来る薬であり、家族などの身近な人がインフルエンザにかかった場合は、医師の判断により予防に使用されるケースもあります。
イナビルの授乳中の使用
イナビルの授乳中の使用に関して製薬会社からは、イナビルを使用した場合、授乳を避けるよう注意喚起されています。
授乳婦に投与する場合には授乳を避けさせること。[動物実験(ラット)で乳汁中に移行することが報告されている。]
イナビル吸入粉末剤20mg 添付文書
上記の注意喚起の理由として、動物実験において、イナビルの成分が母乳中に移行することが確認されているためです((イナビル吸入粉末剤20mg インタビューフォーム http://www.info.pmda.go.jp/go/interview/1/430574_6250703G1022_1_I11_1F))。
ただし、上記の動物実験の結果はイナビルの成分を動物に静脈内投与した結果であり、実際のイナビルが吸入で局所に使用する点と異なる背景があります。
専門家による見解の例として、愛知県薬剤師会が作成している「妊娠・授乳と薬」対応基本手引きでは、授乳中のイナビルの使用に関して、母乳への移行が少なく使用可能という見解です((愛知県薬剤師会 「妊娠・授乳と薬」対応基本手引き(改訂 2 版)(2012)))。
母乳への移行は少なく、授乳婦に使用可能と考えられる。
「妊娠・授乳と薬」対応基本手引き(改訂 2 版)
イナビルの授乳中の使用に関する産婦人科学会の見解
イナビルの授乳中の使用に関する日本産婦人科学会の見解として、「妊娠している婦人もしくは授乳中の婦人に対してのインフルエンザに対する対応Q&A」が公表されています((社団法人 日本産婦人科学会 http://www.jsog.or.jp/news/html/announce_20101222.html))。
このQ&Aの中で、「母親がオセルタミビル・ザナミビルなどの投与を受けている期間でも母乳を与えても良い」としています。インフルエンザ治療薬の具体名として挙げられているのはオセルタミビル・ザナミビルであり、イナビルの成分であるラニナミビルの具体的な記載はありませんが、この点はオセルタミビル・ザナミビルに準じると考えられます。ただし、「搾母乳とするか,直接母乳とするかは,飛沫感染の可能性を考慮し発症している母親の状態により判断する.」とも記載があり、この点は処方医との相談となります。
Q9: 感染している(感染した)母親が授乳することは可能でしょうか?
A9: 原則,母乳栄養を行います. 以下が勧められます。
・母親がインフルエンザを発症し重症でケアが不能な場合には,搾母乳を健康な第 3 者に与えてもらう.
・母親が児をケア可能な状況であれば,マスク着用・清潔ガウン着用としっかりした手洗いを厳守すれば(飛沫・接触感染予防策),直接母乳を与えても良い.
・母親がオセルタミビル・ザナミビルなどの投与を受けている期間でも母乳を与えても良いが,搾母乳とするか,直接母乳とするかは,飛沫感染の可能性を考慮し発症している母親の状態により判断する.
・母親の症状が強く児をケアできない場合には,出生後,児を直ちに預かり室への入室が望ましい.その際,他児と十分な距離をとる(1.5m 以上).
・哺乳瓶・乳首は通常どおりの洗浄でよい.
・原則,飛沫・接触感染予防策の解除は,母親のインフルエンザ発症後 7 日以降に行う妊娠している婦人もしくは授乳中の婦人に対してのインフルエンザに対する対応Q&A
平成22年12月22日
社団法人 日本産科婦人科学会
イナビルの授乳中の使用に関する小児科学会の見解
イナビルの授乳中の使用に関する日本小児科学会および日本新生児成育医学会が作成している「インフルエンザにおける新生児への対応案」でもイナビルなどの抗インフルエンザ薬は使用可能という見解です((公益社団法人 日本小児科学会 インフルエンザにおける新生児への対応案(2017年9月改訂)))。
その内容は日本産婦人科学会のQ&Aと同様、「母親が抗インフルエンザ薬の投与を受けている期間でも母乳を与えても良いが、搾母乳とするか、直接母乳とするかは、飛沫感染の可能性を考慮し発症している母親の状態により判断する。」としており、母乳を与えること自体は可能であり、搾母乳とするか、直接母乳とするかが処方医の判断となります。
C. 母乳の取り扱いおよび母子接触について
原則、母乳栄養を行う。
原則、飛沫・接触感染予防策の解除は,母親のインフルエンザ発症後7 日以降に行う。
母親がインフルエンザを発症し重症でケアが不能な場合には、搾母乳を健康な第3 者に
与えてもらう。
母親が児をケア可能な状況であれば、マスク着用・清潔ガウン着用としっかりした手洗
いを厳守すれば(飛沫・接触感染予防策)、直接母乳を与えても良い。
母親が抗インフルエンザ薬の投与を受けている期間でも母乳を与えても良いが、搾母乳
とするか、直接母乳とするかは、飛沫感染の可能性を考慮し発症している母親の状態に
より判断する。
母親の症状が強く児をケアできない場合には、出生後、児を直ちに新生児室へ入室させ
ることが望ましい。その際、他児と十分な距離をとる(1.5 m 以上)。
哺乳瓶・乳首は通常どおりの洗浄・滅菌でよい。インフルエンザにおける新生児への対応案
2017 年9 月20 日改訂
日本小児科学会
日本新生児成育医学会
イナビルの授乳中の使用は処方医の判断で
上記の通り、イナビルの授乳中の使用は可能という見解が多く、実際に授乳中に使用されるケースが多くあります。ただし、最終的には授乳中でもイナビルを使用するか、母乳を中止するか、また、搾母乳とするか、直接母乳とするかなどは処方医の判断となるため、自己判断で使用せず、医師からの指示に従うようにしましょう。
イナビル使用で授乳を中止した際の再開のタイミングは
イナビルを授乳中に使用し、授乳を一時的に中止した場合の再開のタイミングについて、メーカーからの明確な情報や、学会などからの具体的な指針はなく、処方医の判断となります。
参考になるデータとして、イナビルを使用した時の薬剤の血漿中濃度を確認した試験があり、その結果では、イナビルの成分40mgを使用したときの血中での濃度が半分になるまでの時間は74.4±19.3時間とされており((イナビル吸入粉末剤20mg 添付文書 http://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/PDF/430574_6250703G1022_1_16.pdf))、血中での濃度が半分になるのは約3日後と考えられます。ただし、血漿中濃度と乳汁中の濃度はイコールではないため、その点も考慮が必要となります。
薬を使用する際には必ず薬の説明書や添付文書を確認し、医師や薬剤師から指示された用法・用量で使用してください。また、違和感や副作用と思われる兆候を感じた場合は医師・薬剤師に相談してください。
今回紹介した内容はあくまで一例であり、必ずしも当てはまらないケースがあります。予めご承知ください。
コメント