インフルエンザの予防接種の副作用について、よくみられる副作用の種類(痛み、腫れ、かゆみ、熱、頭痛など)やその頻度、稀に見られる重大な副作用、子供の副作用の注意点、卵アレルギーの注意点などについて解説していきます。
インフルエンザ予防接種の副作用
インフルエンザの予防接種で比較的よく見られる副作用は、接種した部位の疼痛(痛み)、腫脹(腫れ)、発赤・紅斑(赤み)、熱感(熱を持つ)、硬結(硬くなる)、搔痒感(かゆみ)などです。
ただし、これらの接種した部位の副作用は一般的に軽度なものが多く、1〜2日程度で回復することがほとんどであるため、日常生活にはあまり影響を与えません。
より気をつけるべき副作用は接種した部位の副作用でなく、全身の副作用であり、それらには発熱、倦怠感(だるい感じ)、頭痛などがあります。ただし、これらも数日で回復することがほとんどであるため、一般的にインフルエンザ予防接種の副作用のリスクは、インフルエンザの予防効果というメリットを上回るものではないと言えます。
これらの副作用の頻度はワクチンの種類によっても報告されている頻度は異なります。
今回はインフルエンザ予防接種ワクチンの一つである「インフルエンザHAワクチン「北里第一三共」」の副作用の頻度を引用します1)。
1歳以上13歳未満の小児60例を対象とした臨床試験において、1歳以上3歳未満の副作用発現率が50.0%、3歳以上13歳未満の副作用発現率が61.1%という結果でした。
副作用の内訳は1歳以上3歳未満で注射部位紅斑が20.8%、注射部位腫脹が12.5%、注射部位硬結が8.3%、注射部位疼痛が8.3%、注射部位熱感が8.3%、発熱が12.5%でした。
3歳以上13歳未満では注射部位疼痛が44.4%、注射部位腫脹が36.1%、注射部位紅斑が27.8%、注射部位熱感が19.4%、注射部位硬結が19.4%、注射部位そう痒感が13.9%、発熱が13.9%、倦怠感が8.3%、頭痛が8.3%、鼻漏が8.3%という結果でした。
上記の通り、頻度が高い副作用はほとんどが注射部位の副作用がです。また、上記は13歳未満の子供結果ですが、大人でも同様に注射部位の副作用が多く、副作用全体の頻度は子供よりも少ないとされています。
1) インフルエンザHAワクチン「北里第一三共」シリンジ0.25mL 添付文書
ごく稀に起こる重大な副作用
インフルエンザの予防接種はインフルエンザ感染の予防を期待できる非常にメリットの大きいワクチンと言えますが、ごく稀に重大な副作用が起きることもあります。
これらの副作用は頻度が非常に低いため、基本的にはあまり注意する必要はありませんが、万が一、下記のような副作用の初期症状が重なって観察されるような場合にはすぐに医師の処置を受けるようにしましょう。
※各副作用の概要は「重篤副作用疾患別対応マニュアル」を、初期症状は「患者向医薬品ガイド・ワクチン接種を受ける人へのガイド 」を参照しています。
1. ショック、アナフィラキシー
医薬品(治療用アレルゲンなどもふくみます)などに対する急性の過敏反応により、医薬品投与後多くの場合は 30 分以内で、じんま疹などの皮膚症状や、腹痛や嘔吐などの消化器症状、そして息苦しさなどの呼吸器症状を呈します。
アナフィラキシーは通常接種後30分以内におこることが多いので、アレルギー反応を起こしやすい体質などの場合は、30分間は接種施設で待機するか、すぐに医師と連絡をとれるようにしておくと良いでしょう。
<初期症状>
冷や汗、めまい、意識がうすれる、考えがまとまらない、血の気が引く、息切れ、判断力の低下、からだがだるい、ふらつき、意識の低下、考えがまとまらない、ほてり、眼と口唇のまわりのはれ、しゃがれ声、息苦しい、息切れ、動悸(どうき)、じんましん、判断力の低下
2. 急性散在性脳脊髄炎(ADEM)
原因がはっきりしない場合も多いですが、ウイルス感染後あるいはワクチン接種後などに生じる脳や脊髄、視神経の疾病です。免疫力が強くなりすぎて逆に自分自身の体を攻撃する自己免疫という現象が起きていると考えられています。神経線維を覆っている髄鞘が破壊される脱髄という現象が起きる疾患です。
ワクチン接種後の場合は1 〜4週間以内に発生することが多く、発熱、頭痛、意識が混濁する、目が見えにくい、手足が動きにくい、歩きにくい、感覚が鈍いなどの症状がある場合にはこの疾病の可能性があります。
<初期症状>
頭痛、発熱、嘔吐(おうと)、意識が混濁する、目が見えにくい、手足が動きにくい、歩きにくい、感覚が鈍い
3. 脳炎・脳症、脊髄炎、視神経炎
急性脳症は脳の急激な浮腫(むくみ)によっておう吐や血圧・呼吸の変化、意識障害、けいれんなどがみられる脳の危険な状態で、さまざまな原因で起こります。脊髄炎、視神経炎は脊髄、視神系(目の神経)に炎症が起こることです。場合によっては命に関わるケースがあります。
<初期症状>
発熱、頭痛、まひ、意識が混濁する、歩行時のふらつき、口のもつれ、物忘れ、動作が鈍い、発熱、うなじの硬直、両足のまひとしびれ、背中や腰の痛み、排尿感覚がなくなる、眼の痛み、眼球を動かすと痛い、片眼又は両眼の視力が突然下がる
4. ギラン・バレー症候群
ギラン・バレー症候群は,一般的には細菌・ウイルスなどによる上気道の感染や下痢などの感染があり、1~3週後に両足に「力が入らない(筋力低下)」や「しびれる(異常感覚)」などで発症します。
筋力の低下は急速に上方へ進行し、足全体や腕にもおよび、歩行時につまずく、階段を昇がれない(運動まひ)に至ることがあります。さらに、顔の筋肉がまひする、食べ物が飲み込みにくい、声が出にくい、物が二重に見える、呼吸が苦しいなどの症状も起こることもあります。
<初期症状>
腹痛、下半身が動かない、指先のしびれ、足の尖の感覚がなくなる、歩行困難
5. けいれん
痙攣とは発作的に起こる手足や体の筋肉の不随意な収縮をさします。筋収縮は、全身に出るものから一部に止まるものまで様々です。痙攣発現の原因となる部位は、脳のほか、脊髄、末
梢神経、筋肉といろいろです。
<初期症状>
まぶたや顔の筋肉がぴくぴくと動く、筋肉の収縮
6. 肝機能障害、黄疸
肝臓は、生命維持に必要なさまざまな働きをする大切な臓器です。薬の代謝(化学変化)は肝臓で行なわれることが多く、さまざまな代謝産物が肝臓に出現するため、副作用として肝機能障害が多いと考えられています。
単独では肝障害を引き起こさなくても、複数の薬を一緒に飲むと肝障害が出る場合があります。
<初期症状>
からだがだるい、白目が黄色くなる、吐き気、嘔吐(おうと)、食欲不振、かゆみ、皮膚が黄色くなる、尿が黄色い
7. 喘息発作
気道が狭くなっており、炎症が起きている状態です。何らかの刺激により咳をはじめとした発作がでてしまいます。
<初期症状>
ヒューヒュー音がする、息をするときヒューヒューと音がする、息苦しい、息切れ
8. 血小板減少性紫斑病、血小板減少
血小板とは、骨髄中で巨核球から生成される、核のない小さな細胞(2~3 μm)で、出血時の止血、血液の凝固に重要な役割を担っています。
血小板の正常値は 15~35 万/mm3 で、通常 10 万/mm3 以下を血小板減少症としています。血小板数が 5 万/mm3 以下になると、ちょっとした打ち身などであおあざが出来て、それが拡大しやすくなったり、歯磨き時に出血したり、生理出血が止まりにくくなって出血量が増えたりする傾向があります。このような症状がなくても、突然の出血が皮膚にあおあざ、口内の粘膜からの出血(粘膜血腫)、鼻血、血尿、黒色便あるいは便鮮血などとして認められることがあり、血小板数 1 万/mm3 以下になると、頻度は高くありませんが脳内出血など重い症状をきたすこともあります。
<初期症状>
鼻血、歯ぐきの出血、皮下出血、あおあざができる、出血が止まりにくい
9. 血管炎(アレルギー性紫斑病、アレルギー性肉芽腫性血管炎、白血球破砕性血管炎等)
血管に炎症が起きる状態です。アレルギー性によるものや原因不明のものがあります。
<初期症状>
ヒューヒューと音のする呼吸、手足のしびれ、発熱、関節痛、皮下出血によるあざ、からだに赤紫のあざが出現、じんましん
10. 間質性肺炎
肺は、直径 0.1~0.2 mm ほどの肺胞と呼ばれる小さな袋がブドウの房のように集まって出来ているスポンジのような臓器です。ブドウの茎が、空気を吸い込む気管支に相当します。肺胞の壁はとても薄く、毛細血管が網の目のように取り囲んでいます。吸い込んだ空気中の酸素は、肺胞の壁から血液中に取り込まれます。間質性肺炎は、この肺胞の壁や周辺に炎症が起こり、この病態になると血液に酸素が取り込めず、動脈血液中の酸素が減少した状態(低酸素血症)となり呼吸が苦しくなります。症状が一時的で治る場合もありますが、進行して肺線維症(肺が線維化を起こして硬くなってしまった状態)になってしまう場合もあります。
<初期症状>
発熱、から咳、息苦しい、息切れ
11. 皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)
皮膚粘膜眼症候群があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には、適切な処置を行うこと。
<初期症状>
からだがだるい、高熱、発熱、まぶたや眼の充血、結膜のただれ、ひどい口内炎、唇や口内のただれ、食欲不振、赤い発疹、中央にむくみをともなった赤い斑点、陰部の痛み
12. ネフローゼ症候群
ネフローゼ症候群とは、色々な原因で腎臓の糸球体という血液をろ過する器官より血液中の蛋白が多量に漏出し、血液中の蛋白が減少した状態をいいます。
<初期症状>
全身の著明なむくみ、尿量が減る
インフルエンザ予防接種|4価ワクチンで副作用は増えるか
インフルエンザ予防接種は2015-2016シーズンより、従来の3価ワクチンから4価ワクチンに変更されており、2016-2017シーズンも4価ワクチンが使用されます。
4価とは、簡単にいえば4種類のインフルエンザウイルスに対して効果があるということになります。具体的にはインフルエンザA型のH1N1、H3N2の2種類とインフルエンザB型の山形系統、ビクトリア系統の2種類、計4種類のインフルエンザに対して効果があります。
3価から4価に変わったことで従来のワクチンよりも副作用が出やすくなる可能性も懸念されますが、小児に関しては小児感染症学会において、副作用の発現頻度に大きな違いがないことが確認されています2)。
その内容によると6ヶ月〜18歳未満の子供において、局所的な副作用(発赤、腫脹、疼痛、ね熱感、搔痒)と全身の副作用(発熱、頭痛、倦怠感)の発現頻度が3価ワクチンと4価ワクチンで比較され、大きな差がなかったことが確認されています。ただし、発熱に関しては接種当日の発熱が4価ワクチンのみで認められた点なども併せて観察されており、大きなリスク増加は考えにくいものの、今度も4価ワクチンの安全性は確認が必要という結論になっています。
2) 第47回日本小児感染症学会抄録集; 123, 2015
インフルエンザ予防接種における子供での注意点
インフルエンザ予防接種における副作用は一般的に大人よりも子供の方が出やすいとされています。
その分注意が必要と言えますが、実際には観察される副作用は軽微なものが多く、過度な心配は必要ありません。
ただし、1歳未満の子供ではインフルエンザ予防接種の効果もあまり期待できないという報告もあり3)、予防接種のメリット(効果)とデメリット(副作用)とで医師の判断を仰ぐのが良いと言えるでしょう。
3) 神谷齊ほか, 厚生労働科学研究報告書; 2000-2002
インフルエンザ予防接種と卵アレルギー
インフルエンザの予防接種において副作用とは別に卵アレルギーに注意が必要です。
日本におけるインフルエンザワクチンでは製造過程で孵化鶏卵が使われており、卵アレルギーを持った患者さんでは注意が必要となります。
ただし、接種不適当者という分類ではなく、あくまで接種要注意者という分類に該当するため、卵アレルギーを持った患者さんでも、アレルギー症状が軽いような場合は接種できるケースもあります。
実際に予防接種が可能かどうかはクリニックや病院の医師の判断となるため、予め相談するようにしましょう。
なお、過去にアナフィラキシーの症状を伴うアレルギー反応を経験しているような場合は、予防接種の可否は専門家に相談する必要があるとされています4)。
4) Grohskopf LA, et al; MMWR Morb Mortal Wkly Rep, 63: 691-697, 2014
薬を使用する際には必ず薬の説明書や添付文書を確認し、医師や薬剤師から指示された用法・用量で使用してください。また、違和感や副作用と思われる兆候を感じた場合は医師・薬剤師に相談してください。
今回紹介した内容はあくまで一例であり、必ずしも当てはまらないケースがあります。予めご承知ください。
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