ジャヌビア(一般名:シタグリプチン)についてその特徴、効果、使い方、腎機能別の用量、副作用、飲み合わせ、授乳・妊娠への影響、薬価、ジェネリックについて添付文書やインタビューフォーム等から解説していきます。
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ジャヌビアの特徴
ジャヌビアはシタグリプチンを一般名(成分名)とする糖尿病の治療薬です。糖尿病治療薬の中でもDPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)阻害薬に分類され、2型糖尿病に使用されます。
日本においては2009年(発売日:2009 年 12 月 11 日)から製薬会社のMSD株式会社より製造販売されています。
ジャヌビアを含めたDPP-4阻害薬の特徴として、体重増加などのリスクが低い点が挙げられ、現在は多くの糖尿病患者さん使われています。また、その作用機序から従来のスルホニルウレア薬(SU薬)などの糖尿病治療薬よりも低血糖のリスクが低いとされていますが、他の糖尿病治療薬と併用する場合は低血糖に注意が必要とされています。
ジャヌビアはDPP-4阻害薬の中でも多くの規格があり、12.5mg錠、25mg錠、50mg錠、100mg錠の4種類があります。また、同じ成分を含む薬として、全く同じ効果が期待出来る「グラクティブ」も販売されています。
ジャヌビアの効果
ジャヌビアの効能効果は「2型糖尿病」です。1型糖尿病に対しては効果がありません。
【効能又は効果】
2型糖尿病ジャヌビア錠 添付文書
ジャヌビアの作用機序は血糖値依存的なインスリン分泌促進
ジャヌビアが血糖値を下げる作用機序は、DPP-4酵素阻害による血糖値に依存したインスリン分泌の促進です。
ジャヌビアの成分であるシタグリプチンはDPP-4酵素を阻害し、インクレチンのDPP-4による分解を抑制します。インクレチンにはglucagon-like peptide 1(GLP-1)及び glucose-dependent insulinotropic polypeptide(GIP)があり、グルコース恒常性の維持にかかわるホルモンであり、活性型インクレチン濃度を上昇させることにより、血糖値依存的にインスリン分泌促進作用並びにグルカゴン濃度低下作用を増強し血糖コントロールを改善します1)。
1) ジャヌビア錠 添付文書
ジャヌビアの効果時間
ジャヌビアの効果発現時間の参考になるデータとして、外国人におけるシタグリプチン投与後の経口ブドウ糖負荷試験の結果があります。
非日本人の2型糖尿病患者にシタグリプチン25 mg、200 mgあるいはプラセボを単回経口投与し、投与2時間後に経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を実施したところ、プラセボ群と比較し、シタグリプチン群において経口ブドウ糖負荷後の増加血糖AUC0-240 min の統計学的に有意な低下が認められたとされています2)。
また、ジャヌビアの効果持続時間の参考になるデータとしては、日本人でのデータがあり、日本人健康成人男性に、本剤50mg単回投与24時間後の血漿中DPP-4活性阻害率は92%であっ
たとされています2)。
2) ジャヌビア錠 インタビューフォーム
ジャヌビアの臨床成績
ジャヌビアの効果は実際の糖尿病患者さんに対する臨床試験にて確認されています。
ジャヌビアの通常の投与量である1日50mg、および高用量である100mgを12週間使用した患者さんでは、HbA1c、食後2時間血糖値、空腹時血糖値のいずれもが、プラセボ(偽薬)投与の患者さんと比較して、統計学的に有意に改善したという結果が得られています1)。
プラセボ | シタグリプチン50mg | シタグリプチン100mg | |
HbA1c (JDS値,%) 変化量 |
0.3 | -0.7 | -0.7 |
プラセボとの差 | - | -1.0※ | -1.0※ |
食後2時間 血糖値 (mg/dL) 変化量 |
2 | -50 | -57 |
プラセボとの差 | - | -52※ | -58※ |
空腹時 血糖値 (mg/dL) 変化量 |
6 | -11 | -15 |
プラセボとの差 | - | -18※ | -21※ |
※p<0.001
1) ジャヌビア錠 添付文書
ジャヌビアの使い方
ジャヌビアは通常50mg、もしくは症状に応じて100mgを1日1回使用します。
ジャヌビアの用法用量の詳細は以下のとおりです。
通常、成人にはシタグリプチンとして50mgを1日1回経口投与する。なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら100mg1日1回まで増量することができる。
ジャヌビア錠 添付文書
ジャヌビアは食前、食後、いずれでもOK
ジャヌビアを使用するタイミングは、食事の影響を受けにくい薬であるため、食前、食後のいずれでも可能です3)。スルホニルウレア薬や速効型インスリン分泌促進薬などのように細かい使用時間の決まりがなく、使いやすい薬と言えます。
医師や薬剤師から指示された用法に従い服用するようにしましょう。
3) 桝田 出; 糖尿病の薬がわかる本; 医学書院, 2015
ジャヌビアの腎機能障害に応じた用量
ジャヌビアは主に腎臓から排泄されるため、腎機能障害がある場合に通常の用量を使用すると通常より排泄に時間がかかり、効果が強く出て副作用がでる可能性が高くなるケースがあります。そのため、必要に応じて腎機能の程度により調節することがあります。
腎機能の程度を測る指標としてクレアチニンクリアランス(CrCl, 単位: mL/min)や血清クレアチニン値(Cr, 単位: mg/dL)があり、これらの値に応じて以下のような投与量の目安が設定されています1)。
腎機能障害 | CrCl Cr |
通常 投与量 |
最大 投与量 |
中等度 | 30<CrCl<50 男:1.5<Cr<2.5 女:1.3<Cr<2.0 |
25mg 1日1回 |
50mg 1日1回 |
重度 末期 腎不全 |
CrCl<30 男:Cr>2.5 女:Cr>2.0 |
12.5mg 1日1回 |
25mg 1日1回 |
1) ジャヌビア錠 添付文書
ジャヌビアの副作用
ジャヌビアの臨床試験で確認されている主な副作用は、低血糖症(4.2%)、便秘(1.1%)、空腹(0.5%)、腹部膨満(0.5%)等であり、全体の頻度は11.2%とされています。また、検査値の異常変動は主なものは、いずれも肝機能の指標となるALT(GPT)増加(1.2%)、AST(GOT)増加(0.7%)、γ-GTP増加(0. 7%)等であり、全体の頻度は3.7%とされています1)。
上記の通り、最も頻度の高い副作用は低血糖症とされていますが、血糖依存的にインスリン分泌を促進する作用機序から、ジャヌビアの単独投与においては低血糖のリスクは比較的低いとされています4)。ただし、SU薬やインスリン製剤など他の糖尿病治療薬と併用する場合には低血糖の注意が必要となります。
また、SU薬やインスリン製剤などで懸念される体重増加の副作用もその作用機序からリスクが低いとされています4)。
1) ジャヌビア錠 添付文書
4) 福井 次矢 ほか; Pocket Drugs 2016; 医学書院, 2016
ジャヌビアの飲み合わせ
ジャヌビアは他の薬との飲み合わせに関して、絶対に併用できない(併用禁忌)薬はありません。飲み合わせに少し注意が必要(併用注意)という薬が数種類あります1)。
特に併用する頻度が高いものとして考えられるのは、他の糖尿病薬や血圧を下げる目的のβ遮断薬などです。
他の糖尿病薬と飲み合わせが注意が必要な理由として、低血糖のリスクが高まるためです。インスリン製剤、スルホニルウレア剤、速効型インスリン分泌促進薬と併用する場合にはこれらの用量を調節するケースもあります。ただし、他の糖尿病薬との併用は決して珍しいことではなく、糖尿病の処方医の先生では多くの経験があるのが通常であり、基本的には処方通りに使用すればあまり問題になることは多くありません。まずは、正しい用法用量で使用することを心がけましょう。
同様に血圧を下げる目的でβ遮断薬を使用するケースも同一の処方医の先生による処方であれば先生が考慮の上で処方していると考えられるため、あまり問題はないと考えられます。糖尿病治療薬と降圧薬などを別々の先生から処方してもらっている場合は、念のため、双方の先生や薬剤師に該当の薬を使用している旨を伝えておきましょう。これらの薬が併用注意とされている理由も低血糖のリスクによるものです。
成分名等 | 代表的な薬剤等 |
糖尿病用薬: インスリン製剤 スルホニルウレア剤 チアゾリジン系薬剤 ビグアナイド系薬剤 α-グルコシダーゼ阻害剤 速効型インスリン分泌促進薬 GLP-1 受容体作動薬 SGLT2阻害剤 等 |
アマリール、シュアポスト、アクトス、スーグラ、ノボラピッド |
ジゴキシン | ジゴキシン錠 |
血糖降下作用を増強する薬剤: β-遮断薬 サリチル酸剤 モノアミン酸化酵素阻害剤 等 |
アーチスト錠、アスピリン、エフピーOD錠 |
血糖降下作用を減弱する薬剤: アドレナリン 副腎皮質ホルモン 甲状腺ホルモン 等 |
プレドニゾロン |
1) ジャヌビア錠 添付文書
ジャヌビアの薬価とジェネリック
ジャヌビアの2016年4月改定(2018円3月まで)の薬価は、 ジャヌビア錠12.5mgで1錠あたり60.8円、ジャヌビア錠25mgで73.9円、ジャヌビア錠50mgで136.5円、ジャヌビア錠100mgで205.4円とされています。
なお、ジャヌビアは2017年1月時点でジェネリック医薬品は発売されていません。
薬を使用する際には必ず薬の説明書や添付文書を確認し、医師や薬剤師から指示された用法・用量で使用してください。また、違和感や副作用と思われる兆候を感じた場合は医師・薬剤師に相談してください。
今回紹介した内容はあくまで一例であり、必ずしも当てはまらないケースがあります。予めご承知ください。
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